幻の100万円

odarinden2007-11-15

今年の夏前だったでしょうか、
“「わたしと阪急」思い出エッセーコンテスト”なる催しを知りました。
電車、百貨店、タカラヅカなど「阪急」に関する思い出のエッセーを書き、
最優秀賞に選ばれた1名には賞金なんと100万円!
審査員は田辺聖子宮本輝
心が動いたのは言うまでもありません。


そうは言っても沿線に住んで通勤通学してるような話だけではだめで、
何か特別なエピソードがなくては面白くありません。
特に思い当たらない私に夫がこんなことを言いました。
「ぼく昔、母と姉と3人で阪急電車に乗ってたとき、
 母がグーグー眠り込んでしまって終点に着いても起きず、
 そのまま3人で車庫まで乗って行ったことあるで」
…なんと、それは耳寄りな話ではありませんかっ!
よければあたし「手伝う」から書いて応募しようよ、ってなことになったのです。
ところがですね〜。
誰もそのときのことを覚えていないんですw。


阪急に乗ってどこに何をしに行っていたのか、
どうしてお義母さんはそんなに眠っていたのか、
なぜ、子供二人はお義母さんを叩き起こさなかったのか、
車掌とはどんな会話をしたのか、
車庫に入ったのにどうやって電車から降りたのか、
さらにどうして駅の外に出たのか、
そのとき子供ながらにどんなことを感じたのか、
季節は? 時間は? 天気は?
夫の記憶は全滅なうえ、お義母さんはその一件を全く「知らない」というし、
これではエッセーを書こうにも話になりませんw。
もちろん、あったようなことを素にして捏造するわけにもいかず、
こうして張り切っていた私は静かに拳を下ろしたのでした。


すっかり忘れていましたが、このコンテストの審査発表をPR誌で見かけました。
最優秀賞は東京在住の男性で、出張の折りに立ち寄った新阪急ホテル
37年前の万博の記憶が甦るというもの。
正直、文章自体は突出して上手いということはないのですが、
万博という大きなイベントを軸にして、豊かになろうとする大阪、
通訳として携わった自分、外国からの多数のお客を受け入れたホテルと、
あの時代の記憶がきれいにつながるいい作品でした。さすが。
ほかの優秀賞2作品は、百貨店の階段室にスポットをあてた思い出と
亡き父が愛したタカラヅカに一度だけ父と二人で行ったときの話。
素直な文章でホロっとさせる、これまたいい作品でした。


やっぱ、それなりの作品が入賞してるわ。
いい加減な記憶だけで適当に書いて応募するなんて、やっぱりやめといてよかった。
と私は謙虚に思っていたのに。


「あの最優秀作はつまらん」
「キミが無理矢理自分で書くって言ったから、ぼくは書かなかったんや!」
「北口の商店街のこととか、昭和の時代を絡めて書こうとぼくは思っていたのに」
ひぇー。昭和の時代ってw。
夫はまるで自分が書いていたら100万円は貰っていた、とでも言いたげです。
呆れてモノも言えません。